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原爆投下 戦争モラル変質の所産

Category: 原爆  
1995年1月12日(朝日新聞)


原爆投下 戦争モラル変質の所産
一般市民を巻き込んでも構わないという意識


米スミソニアン航空宇宙博物館の原爆展や米郵政公社の原爆切手問題をめぐり、日米の「国民感情を逆なでする」ような論争が起きた。今年は第2次世界大戦集結50年。広島、長崎への原爆投下に至る大戦をどう受け止めるべきなのか。米国など旧連合国の間で様々な記念行事が繰り広げられるだけに、日本も無関心ではいられない。9日発行の米外交誌、フォーリン・アフェアーズ冬季号で、原爆投下の道義を問う論文を発表したスタンフォード大学の歴史学者、バートン・バーンスティーン教授に聞いた。(米カリフォルニア州パロアルト=杉本宏)

バーンスティーン・スタンフォード大教授語る

第2次世界大戦は、指導者や国民の戦争モラルを変質させたという意味で画期的だ。非戦闘員の殺傷を極力避けなければならないという古い倫理規範は薄れ、一般市民を戦争に巻き込んでも構わないという意識が支配的になった。
都市を体系的に狙う戦略爆撃は民間人の大量殺害を前提にしていた。こうした下地があったからこそ、原爆投下に大きなためらいはなかった。
当時、トルーマン大統領の周辺で、広島、長崎への原爆投下や戦略爆撃に苦悩の表情を見せ、戦争モラルについて真剣に問題提起したのはマーシャル陸軍参謀総長だけだった。
側近の多くは投下後に、「反対だった」などと当時を振り返っているが、広島以前に反対したという史実は見当たらない。スチムソン陸軍長官は非戦闘員の大量殺傷に悩むが、それが起きていないと自分で自分を納得させていたようだ。周りも長官が不安なことに気付いていたので、意識的に言及を避けようと努めた。
戦後になって「軍事目標を狙った」などと回顧し、原爆投下を正当化したトルーマン大統領も当時は、長官ほどではないが、こうした「自己欺瞞(ぎまん)」で心理的不安を取り除こうとした。
技術の発達は戦争観を変える。が、私は技術決定論の立場を取らない。そこには指導者による決定がある。戦略爆撃や原爆投下は「非人間的」な決定だったと思う。
戦争モラルの変質は大戦の所産だ。ナチス・ドイツや軍国日本が原爆を持っていたならば、使わなかったと信じる理由はないと思う。事実、ユダヤ人虐殺や日本軍のアジアでの蛮行があった。
米国だけが原爆使用のオプションを持っていた。そして、それを「恐ろしいもの」と見なさないで使った。
先の大戦で原爆使用の恐ろしさがわかったため、再び使うのが難しくなったという議論がある。冷戦時代、核兵器のおかげで米ソのもろい平和が保たれていたという説だ。越えてはいけない「モラルの敷居」がみんなに共有されているというが、キューバ危機などで使用が真剣に検討されたことを忘れるべきでない。核保有国も増えた。都市爆撃は朝鮮戦争やベトナム戦争などでも続いた。冷戦後のいま、モラルの敷居が高くなったかどうかは非常に微妙だ。
原爆投下をめぐって日米が、お互いに道義的責任をなすり合っても仕方がない。それぞれに責めを負うべきところがある。しかし、現在の日本の歴史教育では、南京虐殺や従軍慰安婦問題について健忘症になってしまう。米国の教育も大戦の醜い側面をなかなか認めようとしない。
原爆展をめぐる在郷軍人会の反発は、愛国主義の名の下に歴史を無視しろと要求しているに等しい。非難よりも歴史の精査と再構築に時間を費やすべきだ。それは市民の義務だ。


[解説]

米国人に原爆投下について聞くと、「戦争の集結を早め、日米の多数の人命を救うために使った」という返事が多い。
「戦勝国」のモラルが一般の米国人に浸透しているからだろう。民間人の大量殺傷に割り切れなさを覚えても、リーメンバー・パールハーバーや日本軍の残虐行為、「民主主義対ファシズム」などで正当化しようとする心理が強く働いてしまう。
バーンスティーン教授は、大戦の意味を「道義的自制心の喪失」ととらえることで米国人の一般的な意識に修正を迫っている。
原爆投下を戦略爆撃の延長戦に位置づけ、当時の米政策決定に道義的自制心が明確にあったかどうかを検証する研究は比較的最近のものだ。米歴史学者の間で「原爆は戦争の早期終結のために不必要だったという説がコンセンサス」(米原子力規制委員会の歴史家サミュエル・ウォーカー氏)になってからのことだ。
教授はこうした道義論を一歩進め、「どの当事国も民間人の大量殺傷に鈍感になった」という視点から米国の原爆投下責任を認め、その上で日本にも過去の清算を問いかけている。
米国の責任軽減につながるとの批判もあろう。どの国も当時、原爆を持っていたならば、使用しただろうという教授の説は多分に憶測を含む。原爆投下論議をめぐって、「日米間の歴史の共有」を模索しようとする動きが米国内に芽生えてきたことは、注目に値する。
あえて世間の「常識」に挑む教授の発言には、米国の将来への思いが強くにじむ。今後、米国が内外の諸問題に打ち勝っていくためには、「人間性に支えられた健全な愛国心が必要だ」という信念だ。教授は「戦勝ムードに流されず、歴史を直視し、未来に向けて教訓を学ぶ態度を持たなければ」と言う。(杉本宏)


バートン・バーンスタイン
1936年生まれ。クイーンズ大卒、ハーバード大学で博士号。専門は米外交史。米国の核兵器開発、日本への原爆投下をめぐる一連の研究で知られる。米スタンフォード大歴史学教授。「フォーリン・アフェアーズ」誌95年2月号で論文「検証・原爆投下までの300日」を発表。新資料をもとに「原爆が戦争終結を早めた」「米兵50万人の命が失われるのを防いだ」という定説を覆し、日米両国で論争を巻き起こした。(略歴出典:毎日新聞)

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