FC2ブログ

今日ボクが見た風景

移民増加を恐れ、急速に右傾化する欧州

Category: 世界  

移民増加を恐れ、急速に右傾化する欧州

スラム街の増加に頭痛める、寛容の国スウェーデン

2011.06.16(Thu)  竹野 敏貴

陽光降り注ぐ南仏のリゾート地、コート・ダジュール。大物映画スターたちが集う5月のカンヌは国際映画祭の開催で華やかな空気に包まれる。欧米の映画大国以外からエントリーする映画人にとって、この地での成功は世界進出への第一歩をも意味し、過去、黒澤明監督をはじめとして多くの日本人も恩恵を受けてきた。

あのトリアー監督がついに映画祭出入り禁止に

カンヌ映画祭に出品された「一命」


 

そういったことからアカデミー賞よりずっと意味があり、また身近に感じる存在だが、今回日本からエントリーした河瀬直美監督の「朱花の月」や市川海老蔵主演の「一命」は、残念ながら受賞はならなかった。

 毎回、時代を象徴する作品が話題をさらうが、今年は映画そのものより、一監督の舌禍事件の方が世の関心を引きつけた。

 現代デンマークを代表し、2000年には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で最高賞「パルムドール」を受賞するなどカンヌの常連であるラース・フォン・トリアー監督が、映画祭事務局から「ペルソナ・ノン・グラータ(外交用語で「好ましからざる人物」を意味する)」宣告され、事実上の映画祭出入り禁止処分を受けてしまったのである。

 歯に衣着せぬ言動で騒ぎを引き起こすのが常のフォン・トリアー監督だけに、今回も、記者たちは「またか」といった感じで受け止めていたようだが、映画祭事務局の反応は違ったものだった。

 過去にも、イベントにあまりにも批判的だった評論家時代のフランソワ・トリュフォーが出入り禁止となったことがあったが、今回問題視されたのは、記者会見でのヒトラーへの共感をほのめかす言動。

デンマーク人の理解を超えていたフランスらしさ?

カンヌ映画祭、ヒトラー擁護発言の監督を追放処分

ラース・フォン・トリアー監督〔AFPBB News




 

ニュース映像を見る限りでは冗談めかした発言にも見え、それほどの大問題となることには思えないもので映画関係者からも疑問の声が聞こえてくる。

 しかし、フランスには「人道に反する罪」を否定した罪、というものがあって、「ホロコーストなどなかった」と発言した者が実際に罪に問われたこともあるのだ。

 フランスのそんな一面を、「表現の自由」が極めて高いレベルにあるデンマーク出身のフォン・トリアーはすっかり忘れてしまっていたのだろう。

 考えてもみれば、カンヌ映画祭自体、ファシズムとの対峙から始まったものだった。

 1932年、初の国際映画コンペティションとして始まったベネチア映画祭が、ベニート・ムッソリーニ政権による露骨な介入を受け、イタリアや盟友ドイツの国威を示す作品ばかりに受賞作が集中、政治宣伝の道具と化し、映画祭としての意味を疑うような状況が続いていた。

ムッソリーニ支配のベネチア映画祭に対抗して始まったカンヌ映画祭

南仏の町並


 そんなベネチア映画祭に対抗すべく、政治や商業と離れ純粋に文化的なものとする意図のもと、フランス政府の肝いりで開催を決めたのがカンヌ映画祭で、その第1回は1939年9月1日から開かれることになっていた。

 ところがその当日、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻、第2次世界大戦が勃発してしまい映画祭は中止、終戦後の1946年まで開催は持ち越されることになる。

 翌年フランスはドイツに占領され、中部の温泉保養地ヴィシーにドイツの傀儡政権が置かれることになるが、このヴィシーという地、実は有力な映画祭開催候補地だったというから歴史とは皮肉なものである。

 1943年、ヴィシー政権統治下のパリにあるコンティナンタル社製作で映画『密告』が撮られた。小さな村で850通もの密告手紙が出回り、村人たち誰もが隣人を疑う様が描かれたサスペンスあふれる快作だった。

 しかし終戦後、ナチス・ドイツにおもねった作品であるとの判断が下され、監督のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーをはじめとする関係者は映画界から追放されてしまったのである。

サルコジ大統領をしのぐ人気のマリーヌ

フランス極右「国民戦線」、ルペン氏3女が党首に

父の後を継いだ3女のマリーヌ・ル・ペン党首〔AFPBB News




 

のちに禁は解かれ、クルーゾー監督はベネチア映画祭金獅子賞やカンヌ映画祭グランプリを獲得するほどの活躍を見せることになるのだが、第2次世界大戦中の分裂したフランスという、忘れてしまいたい忌まわしい事実の犠牲者となったとも言えるだろう。

 そんなドイツ占領下の生活は「それほどひどいものではなかった」と21世紀になってからも言い放ち、物議を醸していたのが極右政党国民戦線創始者ジャン・マリー・ル・ペンである。

 2002年の大統領選では決選投票に進出するほどの支持を集めていたことで我々を驚かせたが、今年初め、国民戦線代表の座を末娘マリーヌに譲った。

 そのマリーヌも来年に迫った大統領選への出馬が有力視されているが、この3月に行われた世論調査では現職のニコラ・サルコジ大統領を抜いてトップの支持率を得ている。


 マリーヌは、イスラム教徒が急増する今のフランス社会をナチス・ドイツに占領されていたフランスとオーバーラップさせることで、移民規制強化を高らかに訴えている。

国境審査をなくしたシェンゲン協定

コペンハーゲンの町並み


 「アラブの春」真っ盛りの今、フランスに押し寄せる移民はあとを絶たず、イスラム過激派混入への懸念もあって支持率も高くなっているようだ。

 そんな移民の流入は、今やフランスだけの問題とは言えなくなっている。ひとたび欧州に「入国」してしまえば、どの国へも入国審査なしに行けてしまうからである。

 国境審査がなくなっている根拠はEU加盟国だから、というよりも、シェンゲン協定参加国であるからで、EU未加盟のスイス、ノルウェー、アイスランドへも審査なしで入国できてしまう。

 そんな中、フォン・トリアーの母国デンマークが国境審査を強化することを発表した。「社会秩序上の懸念」という協定の例外規定を使ったものだと説明しているが、いわば「ペルソナ・ノン・グラータ」指定の権利を行使したようなものだ。

 海峡を介し対面するデンマークの首都コペンハーゲンとスウェーデン第3の都市マルメに架かるウアソン橋も、そうした審査強化の地となることだろう。2000年に完成したこの橋は、別居生活を送る国際結婚カップルが配偶者に会いに渡ることから「愛の橋」と呼ばれている。

24歳以下の移住規制を敷いたデンマーク

 デンマークが移民の大量移入を恐れ、24歳以下の外国人配偶者は国内に住めなくなったため、移住規制の緩いスウェーデンとデンマークに夫婦別れて住むケースが数多くあるからである。

 この批判の多い「24歳ルール」は昨年改められ、各種規定によるポイント制となったが、事実上状況は変わっていないようだ。

 デンマークの現政権は中道右派だが、極右のデンマーク国民党の閣外協力に頼っているため、どうしても政策は保守に傾き、すでに2002年、欧州で最も厳しいと言われる移民法が制定され、新たなる移民は事実上不可と言われるほどの状況となっている。

 今年夏の総選挙に向け、ポプリスモ的傾向のある極右政党は移民規制をさらに強く掲げている。


 もっともこのデンマークとて、初めから移民を排除しようとしていたわけではなく、それが証拠に人口500万そこそこの国でトルコ、パキスタン、イラクなどからの移民が約20万人住んでいる。以前は毎年数千人に及ぶ大量の移民を受け入れていたのである。

寛容の国スウェーデンが悩む移民スラム

ストックホルムの街を海から望む


 その一方で、規制を強くかけなかった「寛容の国」である隣国スウェーデンの大都市には、失業率の高い移民たちのスラムが形成されており、国境の街マルメの治安悪化は深刻なものとなっている。

 こうなるとさすがにスウェーデン人の「寛容」も失われつつあり、昨年9月に行われた総選挙では難民規制を掲げる極右政党が大躍進している。

 しかし、昨年末、ストックホルムの繁華街では自爆テロ事件が発生、デンマークの新聞社襲撃を計画していたというチュニジア、イラク出身のスウェーデン人が逮捕されるなど状況は悪化の一途である。

 2005年、世界中のイスラム教徒の怒りを買ったムハンマド風刺漫画のデンマーク日刊紙への掲載事件の背景には、こうした社会状況が大きく作用している。

 もともと風刺画文化が根づいている北欧では、政治家やセレブのみならず、王室、宗教といったものまでも平気で題材とするので、反応の大きさに少々驚いたようでもあるが、それこそが偶像崇拝を極力嫌うイスラム教への理解の浅さの証拠とも言える。

表現への遠慮が感じられないトリアー作品

 しかし、それでも国境なき記者団の「報道自由度ランキング」で常に上位をキープしているデンマークだけに、イスラム諸国からの度重なる非難に対しても、政府は「表現の自由」を主張し続けている。

 そんな国の代表的映像表現者であるフォン・トリアーの作品には、表現への遠慮というものが感じられない。

 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』では、親切そうに接していた隣人がわずかなお金で豹変してしまう情けない人間の性が描かれている。感動というより、人間の汚なさへの嫌悪感ばかりが残ってしまう。

 その主人公を演じたビョークはアイスランドの国民的歌姫で、この作品でカンヌ映画祭主演女優賞を獲得している。彼女もこれまた遠慮ない発言で物議を醸すことの多い人物である。


 もともとデンマーク領だったアイスランドも表現の自由度の極めて高い国なのである。

アイスランドもまた表現の自由度が高い

アイスランドの海岸線

 そのアイスランド初のホラー映画『レイキャヴィク ホエール・ウォッチング・マサカー』(2009)が現在劇場公開されている。

 捕鯨禁止で生活手段を失った一家がホエールウォッチングに訪れた観光客を襲うスプラッターホラー映画なのだが、登場人物は漁師の側も観光客の側も皆偏見に満ちた愚人ばかり。

 この映画の脚本を書いたシオン・シガードンは有名なアイスランドの作家で、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でビョークが歌う半ば狂言回しとも言える歌の詞を書いた人物でもある。

 捕鯨業が世界中からバッシングを受けていることは、このアイスランド、ノルウェーとともに3大捕鯨国と言われている日本人には周知のこと。

 しかし、いくら娯楽映画であっても、反捕鯨に対する恨みを生々しく表現した人物が登場する映画を作ってしまうアイスランド人は、やはり表現の自由を謳歌し自己主張をしっかりする北欧民族なのだな、と思ってしまう。

善意の裏にあるエゴを暴き出した作品群

 2008年に撮られたこの映画の撮影後まもなくアイスランドは捕鯨を再開しているし、その是非は別としても、イルカ追い込み漁を『ザ・コーヴ』(2009)に隠し撮りされシュンとしてしまった日本人とは国民性が違うと言うしかないだろう。

 フォン・トリアーの代表作『ドッグヴィル』(2003)には、窮地に立たされた主人公を「善意」で助けているように見える人々が、次第に主人公の弱みにつけ込むようになる様子が描かれ、「善意」とは表裏の人間のエゴというものを暴き出している。

 自分の方が有利、自分は正しいことをしている、という優越感あっての「善意」は、自分自身が満ち足りなくなった時にはあっさり瓦解することを、フォン・トリアーの多くの作品は嫌と言うほど語っている。

 遠くから「アラブの春」をはやし立てるのは簡単なことだ。しかし、その「副作用」たる移民問題が自分の生活にまで深刻な影響を及ぼした時、「善意」を施すなどと悠長なことを言っていられる者がどれだけいるのだろうか、ということなのである。

 こうした人間の淋しい性を代弁しているのが今の欧州の極右政党であるとの現実は受け入れ難いことかもしれないが、できもしない政策をただまくし立てるだけの政治家よりはよっぽどまし、と思えてくる日本の政治の貧困に、もはや打つ手はないのだろうか・・・。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ダンサー・イン・ザ・ダーク Dancer in the dark 2000年デンマーク映画

ダンサー・イン・ザ・ダーク


(監督)ラース・フォン・トリアー
(出演)ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ、デヴィッド・モース

 遺伝病で失明するのが時間の問題となっている主人公唯一の願いは、お金をためて、同じ病気に苦しむ息子に手術を受けさせること。

 ところが、いつもは親切にしてくれていた隣人にそのお金を取られた挙句、泥棒扱いまでされてしまう。そして、その争いの中で殺人犯人に仕立て上げられてしまった主人公の運命は・・・。

 深刻な場面からいきなり主人公が歌い出すシーンがあるが、苛酷な運命に翻弄される主人公がミュージカルの世界という空想へと現実逃避する姿となっており、突然歌い出す不自然さを揶揄されることの多いミュージカル映画というものの本質を逆手に取った心憎い演出である。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



密告 Le corbeau 1943年フランス映画

密告


(監督)アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
(出演)ピエール・フレネー、ピエール・ラルケ

 フランスの小さな田舎町の人々は、「カラス」と名乗る者からの手紙に悩まされていた。

 中傷にあふれるその手紙は850通にも及び、不治の病を抱える男にその病名を告げる手紙まで送りつけられ、悲嘆した男が自殺する事態まで引き起こしてしまう。一体「カラス」とは誰なのか・・・。

 ナチス・ドイツ占領下のヴィシー・フランスで撮られた本作は、『恐怖の報酬』(1953)で知られるクルーゾー監督の絶妙のストーリーテリングで興味を惹きつける快作である。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レイキャヴィク ホエール・ウォッチング・マサカー 

Reykjavik Whale watching Massacre 2009年アイスランド映画

レイキャヴィク


(監督)ジュリアス・ケンプ
(出演)テレンス・アンダーソン、裕木奈江

 ホエールウォッチング船の船長が不慮の死を遂げ、乗船していた観光客たちは海上に取り残されてしまう。そこにやって来たのが、以前捕鯨で生計を立てていたものの今はみやげもの販売で細々と生計を立てている男の小舟。

 今や家族の住みかと化している捕鯨船へと観光客を連れ帰った男は、そこで観光客の虐殺(マサカー)を始めるのだった。

 ホエールウォッチング船に乗った人々は、ドイツの子供番組を製作する高慢な中年女性、飲んだくれのフランス人、ゲイの黒人、傲慢な日本人夫婦とその秘書など。

 誰一人として清廉潔白な人物はいない。登場人物のエゴとエゴがぶつかり合う様が、文字通り血しぶきを上げて展開されていく。

 副題はスプラッターホラー映画の古典「The Texax chain saw massacre(悪魔のいけにえ)」へのオマージュで、その作品で殺人鬼「レザーフェイス」を演じていたガンナー・ハンセンも本作に船長役で出演している。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ザ・コーヴ The cove 2009年米国映画

ザ・コーヴ


(監督)ルイ・シホヨス

 紀伊半島南端近くの入り江(cove)の町、和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁の実態を隠し撮りした映像で見せる問題作。

 かつて人気テレビシリーズ「わんぱくフリッパー」で調教師兼俳優として活動していたリック・オバリーのイルカ保護への思いも描かれている。

 第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したことから、世界中の注目を集めるようになった。

 IWCの保護対象ではないイルカの追い込み漁は法的には認められているもので、日本以外にも、ソロモン諸島や、デンマークのフェロー諸島で行われている。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ドッグヴィル Dogville 2003年デンマーク映画

ドッグヴィル


(監督)ラース・フォン・トリアー
(出演)ニコール・キッドマン、ポール・ベタニー

 ロッキー山脈の小さな山村にギャングに追われやって来た謎の女グレース。村人たちの善意でかくまわれることになるが、その弱みを握った村人たちは次第にグレースを奴隷のようにこき使うようになっていく。

 ところが、実際には、村人の運命を変えるだけの権力をグレースは持っていたのだった・・・。

 廃墟の工場跡にただ線が引かれただけのセットで繰り広げられる、あまりにも生々しい愛憎劇。善意の裏にある弱者への優越感といった人間のエゴを極限まで描く予測不能のストーリーテリングで、見る者の興味を惹きつけていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

関連記事

Comments

« »

07 2020
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
NASA Visible Earth
Web page translation
Flag Counter
free counters
xxx
全記事表示リンク