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今日ボクが見た風景

出口が見つからないチェルノブイリ

Category: ブログ  
放射能のある風景 終わりへの出口が見つからないチェルノブイリ
2011.5.23


今日ボクが見た風景

異界への入り口のチェックポイントは、赤と白に塗り分けられたバーで遮断されていた。

 ウクライナの首都キエフから車で北に80キロほど進んだ場所である。あたりは白樺(しらかば)や松の林が広がる平原だ。目の前の直線道路は30キロ先のチェルノブイリ原子力発電所に通じている。

 ここから先は、発電所から半径30キロの「ゾーン」と呼ばれる立ち入り制限圏内なのだ。

 道路の幅は、遠近法の構図にしたがって、木立を従えながら遠くほど狭まっている。道の右側は左方に、左側は右に片寄りつつ、前方の一点に向かって収斂(しゅうれん)していた。

 所定の手続きを終えた車は、遠近法の焦点の世界へと入っていった。チェルノブイリ事故20年の取材で現地を訪れた2006年2月のことである。

                   ◇

 ゾーン内部の風景は独特だった。木々を透かして見える距離に民家が散見されるのだが、その窓が景色の明るさと対照的に暗い。20年間の闇が無人の屋内に塗り込められた印象だ。

 汚れたコンクリートのバス停も景色の後方に流れていく。うつろな眼窩(がんか)のような黒い窓に見送られて車は進む。

 4号炉の暴走・爆発事故が起きた1986年4月まで、30キロ圏内には13万5千人の暮らしがあった。それが無人地帯となっている。放射線のレベルはいまだに高い。持参した測定器の数値が告げてはいても、肌で感じるわけではない。

人けの消えた人工物は、歳月とともに風化していくが、草木などの自然は、無人のまま毎年更新される。その対比が、不思議な光景としてゾーン内に定着しているのだ。

                   ◇

 この自然界も壊れた原子炉からまき散らされた放射能で痛手を受けた。

 事故直後には緑の針葉が真っ赤に変じて、松の木が枯れた。針葉が2倍の長さに伸びた松もあったという。事故に対応して設立された国際チェルノブイリセンター付属環境生態研究所の所長が教えてくれた。

 放射線に対しては生物の種類によって感受性が異なり、白樺は松よりタフだった。動物の中で人間は、最も弱い一員だ。

 野生の哺乳類は、10倍ほど強い。その差のために、無人のゾーン内は野生の王国になっている。オオカミの群れもいるし、ヨーロッパビーバーやカワウソ、コウノトリも暮らす。

 野生動物の寿命が短いことも彼らが平気でいられることの一因だろう。しかし、ソロモン王の指環(ゆびわ)をはめ、聞き耳頭巾をかぶると、動物たちの会話が聞こえてきそうだ。「人間は放射能より危険だからね」

 チェルノブイリ原子力発電所の4号炉を、現在の「石棺」ごとすっぽり覆って内部の放射能を完全に封じ込めるための巨大なシェルターが建設されることになっている。

 このシェルターには古代エジプトのピラミッドに劣らぬ大きさと耐久性が求められるのだ。 福島と異なり、運転中の原子炉が大爆発し、炎上したチェルノブイリ事故には、終わりへの出口が見つからない。(長辻象平)


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