◆「おはよう世界」NHK高橋弘行キャスターに聞く日本の姿

世界のニュースを毎朝いち早くお届けするNHKーBS1の「おはよう世界」。番組ではアメリカからフランス、ロシア、カタールなど、各国のニュースを通訳付きで紹介し、キャスターによるニュース解説を加えながら、世界の動きを分かりやすく放送している。

「ここヘンJAPAN」は今回、ニュースのプロである高橋弘行キャスターにインタビューを行った。絶え間なく変化する国際情勢の中で、日本は世界からどう見られているのか、日本人はこれからどうしたらいいのか、世界のニュースを通して見える日本の姿について話を聞いた。001
●ニュースは「幕の内弁当」を目指せ!

――「おはよう世界」は高橋キャスターが独自の目線でニュースを伝えています。世界から入るさまざまな情報をどのような基準で選び、伝えているのでしょうか?

高橋 まず、一番重視していることは「多様性」です。例えば、ある地域で大きな紛争があっても、別の地域では平和な催しが行われ、世界のあちこちでテロが起きているけれど、日本は平和だったりする。つまり見える風景は千差万別で、多様性に富んでいて、悲しい話だけでも、明るい話ばかりでもない。ですから、その日一日に起きたさまざまな出来事を集め、ニュースに多様性を持たせたいと思っています。

2007年に番組のキャスターになったばかりの頃は、スタッフに「色に気をつけるように」と言っていました。ニュースの「色」ですね。少し乱暴な言い方ですが「イラクでテロが起きました」と言うと、何となく茶色っぽい写真の色や、爆発でケガ人が出て血が流れるなど悲しい色になりますが、しかしその色だけでその日の世界のニュースが終わるのではありません。世界はひとつの色だけで報道されるべきではない、というのが僕の考えです。そう考えるといろんな話しが出てくるはずなので、イメージとしては日替わりの「幕の内弁当」を作ろうという気持ちです。フタをぱかっと開けた時に「あ、今日はこんな弁当なんだ」という感じで「今日はこんな出来事があったんだ」と思えるよう、ニュースの幕の内弁当を作りたいと思っています。

もうひとつは「相対性」。物事はすべて裏から見る見方もあるということ。例えば、国連で長い間、テロを防止するための条約を作ろうとしていますが、ずっとまとまらない。それはなぜかと言うと、テロの定義が決まらないから。ある側から見たらテロかもしれないけれど、ある側から見たら革命のための努力かもしれない。

――正義の定義が違うということですね。

高橋 そう。正義が違うように、ものの見方もみんな違う。イスラエルとパレスチナの関係もそうだし、オバマ政権がやろうとしている減税もそう。ニュースでは物事を決めつけるのではなく、いろいろな意見を並べたい。それも「色」と関係するかもしれないけれど、ものの見方の違いですね。

――情報があふれる中で、ひとつの物事をほかの目線で見ていこうということですね。

高橋 例えばドイツの放送局ZDF(ツェット・デー・エフ)は、ロシアの出来事に対して基本的に冷たい報道をします。逆に、ロシアの放送局RTR(エル・テー・エル)はドイツについてあまり好意的にとらえず、少し皮肉を込めています。それは、歴史的な背景や、私たちに国籍があるように、すべての放送局にも国籍があり、その生い立ちや背負って立つ立場というものから絶対に逃れられないということ。国営か公営かということや、その国が“報道の自由”を戦って勝ち取ってきた国なのか、それとも政府や権力により近しいレベルで報道が発達してきた国なのか。今放送されているものが、すでにその国の立場を持っている。

私たちはそこから逃れられない。となると真実の報道は何か、この報道が真実なのかどうかを追求するより「この国はこんな報道をしていますね、このことについてこっちの国はこういう目線を持っています」と意見をぶつけることで、見ている人に世の中の価値がひとつではない、相対的なものなんだと思ってもらいたい。ニュースでは、その立場に寄るべきなのかどうかという材料を提供したい。それが2番目の目的です。

もう少し付け加えるならば、「インターネット」を意識しています。これまでインターネットは大手メディアの記事をそのまま貼付けているだけだと言われてきたけど、今は速報性も身につけている。つまり、見ている人にとってどんどん魅力の増したツールになっている。わたしたちテレビ側は、遅れたメディアと言われて久しいですが、そういった中で、テレビはどうやってインターネットと付き合っていったらいいか。インターネットを見ている人にも満足してもらえる番組にしたい。つまり、普段はインターネットを見ているけれど「いろんな物の見方もあるし、いろんな事が分かるから、この時間だけは『おはよう世界』を見てみよう」という風にしたい。私たちの強みは、世界各地の放送局のニュースに通訳をつけて、2時間から3時間のできるだけ短い時間で紹介すること。できれば解説も付けて放送する。それだけの付加価値を、お金と手間をかけてみんなに見せたい。そこに魅力を見いだして欲しいし、見いだしてもらえるように努力したいと思っています。

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●世界で報じられた日本のニュースは、政権交代とトヨタのリコール問題くらい。

――米国をはじめ世界では、中国の動向に注目しニュースで報じています。日本の場合、不祥事でしたがトヨタのリコール問題は海外メディアに取り上げられました。ほかにも日本の動向について世界で報じられたことはありましたか。

高橋 07年からこの番組を始めていますが、07年から08年にかけて日本が注目を浴びたというニュースは、実はほとんどないんです。08年にショックだったのは、岩手で地震があったのですが、それが上半期で一番取り上げられたニュースでした。それはなぜかと言うと、同じ年に四川大地震がありましたよね。四川大地震が起きて1カ月くらい後に起きた地震だったのですが、世界が取り上げたのは四川大地震のすぐそばでこんな大地震が起きたという報道のされ方だったんです。

――関連しているから報道されたということですね。

高橋 そう。07年から08年の間、自民党から民主党に変わる過程、それに関する世界の報道はあまり関心が高いとは思えなかった。ただ、09年に民主党に政権が変わった時は、アジアを中心に非常に大きな報道がありました。

――それはなぜでしょうか。

高橋 08年にオバマ大統領が「チェンジ」と言って大統領になり、世界中が「チェンジ」を取り上げたましたが、日本もチェンジするのか、つまり政権が大きく変わったということについて、世界のニュースにやや驚きをもって伝えられた印象はあります。鳩山さんから菅さんに変わった時は、それほど報道はありませんでしたが、政権が変わった時は大きかった。あとは09年から10年にかけてのトヨタリコール問題ですね。

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――トヨタリコール問題はヨーロッパでも取り上げられましたか。

高橋 ええ。世界中が取り上げました。こうした政権交代と、トヨタのリコール問題が印象に残るわけですが、日本の功績や外交といった面ではなかなか…。日本人はどう見られているのか、日本の情報についてもっと取り上げたいと思っているのですが、正直なかなかないんです。

――オバマ大統領が広島を訪問したいと言いましたが、それはどう報じられましたか。

高橋 去年8月に広島で平和記念式典がありました。あの時にオバマ大統領は来ませんでしたが、ルース駐日大使が行きましたよね。あれはCNNをはじめ、各社がかなり分厚く取り上げました。

――それは批判的にですか?

高橋 いいえ。CNNなどはオバマ政権にとってひとつの大きな出来事である、オバマ大統領が将来、広島を訪問するという話はあるが、それは国内で大変な議論を呼ぶだろう、というような予測でした。それはアメリカ国内でオバマ大統領が日本に行くのは難しいのではないかということを臭わせているような記事でした。ただアメリカの大使が初めて訪問したことをメディアが取り上げていて、僕もなんでこんなに取り上げられているんだろうと意外に思いましたが、よく考えてみればオバマ大統領がノーベル平和賞を取ったこともあり、核兵器に関する少しでも良い動きを世界が取り上げることを決めた、各報道局の意志を感じました。この話は取り上げるべきだという、その意味ではいい話だったと思います。

――最近オバマ大統領は核実験を行いましたが、それについてはどう報じられましたか?インターネット上では批判的な意見がありましたが…。

高橋 あまり報道されませんでしたね。世界の放送局が取り上げることもありませんでした。今年の日本絡みのニュースとしてはそれくらいでしたね。

――残念ですね。日本の話題が取り上げられないのは外交の問題なのでしょうか。

高橋 外交とか政治とかひと言で言う事はできなくて、日本全体の問題でしょう。私は2003年から07年までアメリカにいましたが、携帯電話ひとつとっても日本企業の姿はほとんどありませんでした。タイムズスクエアの広告塔を見ても、昔はもっと日本企業の広告があった気がしましたが、僕がいたころはLGやサムスンのように韓国系が多かった。つまり日本企業も世界の中で力を少し弱めているでしょうし、あるいは政治ということもあるでしょう。イチローや松井秀喜が大リーグで活躍しているにも関わらず、若者が海外に出て行って自分の実力を試すために世界に羽ばたいていくというような傾向は弱く、日本全体として外に出て行く感じがないですよね。実際に人間が外に出て行くという物理的なこともさることながら、アイデアや考え方という面でも言えます。その一方で、お寿司などは世界を席巻しているわけで、そういう意味ではソフトパワーみたいなものは広がっているけれど、日本が何かを押し進めていくような報道はありません。

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●世界の動きを素直に受け止め、変化を感じる

――先ほどの話と少し関連すると思いますが、世界において、日本の報道の仕方とアメリカの報道の仕方は違いますか? アルジャジーラとCNNでは全く違うように、日本とアメリカもやはり違ってくるのでしょうか。

高橋 相対性というのは、ある何かのテーマについてさまざまな見方があると言うものですが、基本的に人間としての記者が取材をするということにおいて、日本もアメリカもあまり変わらない。僕が03年から07年にアメリカで取材していた時、特にハリケーンのカトリーナで、僕は現場のニューオリンズに行きました。その時、NHKの取材陣はCNNに全く負けていないと感じました。私たちは日本人としてアメリカの災害現場に行くので、アメリカという国から離れて客観的に見ることができます。しかし彼らは違う。例えばニューオリンズという所は湿地帯で、かつては奴隷貿易の拠点だったところです。低所得者層が多く、そういうところを助けるか助けないかは、常に彼らの歴史を背負って報道することになります。そうすると、やはり彼らは彼らの立場でしかものが言えない。この状態はひどいとか、この状態は素晴らしいとか、そういうことを私たちの方が素直に言えているな、というのが実際に報道していて感じたことです。

現場に到着するスピードとか、言葉の問題はあるけれど、到着してからの放送の出し方とかは、全然負けていない。それは同じ人間だから一緒なんです。ただ、伝える人間が何を背負い、その人がどんな環境で育って来たのかで、いろんな価値観があるわけですよね。日本からアメリカを捉えるというのは決して悪い事ではないなと感じた。でも「アメリカ人はこういうものの見方をしている」と言われると、そこは難しい。つまり、なんでも人種差別とも言えないし、全く人種差別が無いとも言えない。例えば僕は4年間アメリカに住んでいて、しばしば人種差別的なことを自分の中で感じたとこがありましたが、その話をニューヨークで会社の仲間にすると「そんなことは感じたことがない」という人もいる。ニューヨークに20年住んでいるという人もいるけれど、人種差別的なことは感じたこともないという人もいる。
 
――それは同じアジア人でしょうか?

高橋 日本人です。だからそれは、それこそコマーシャルで「個人の感想です。」ってあるじゃない。個人が思っていることと、実際に起きている事は別だから、必ずしも記者の目を通したものが真実とは言えない。だからものの見方はいろいろで、必ずしもこれだから人種差別であるとか、必ずしもこれだからオバマ大統領がこうだとか言うのは本当に難しい。

――取材のところは負けていないと言いますが、配信する時には若干違ってくるのではないでしょうか? 例えばイラク戦争についてアメリカはアメリカの視点で放送し、アルジャジーラはアルジャジーラの視点でというように。日本はどちらかというと、アメリカ寄りで放送されるものなのでしょうか。

高橋 ひと言でそうとは言えないですね。イラク戦争でも1年、2年、3年と経つと、日本人から見たイラク戦争はもう泥沼で、アメリカ人も嫌になっているのでは…と思ってしまいますよね。でも、そういう先入観を持って取材をすると失敗します。例えば、911が起きました。911はイスラムがテロで攻撃を行ったが、アメリカ人はずっと被害者だと思っているのかな、ひょっとしたら自分たちの側にもイスラムのテロを引き起すことが何かなかっただろうか、と思ってないかな?と日本人として思ってしまうわけですよね。そういう先入観を持って取材をするのは間違い。

――何も考えないで取材をするということですか?

高橋 何も考えないというよりも、彼らが感じていることを素直に受け止めるのが一番。素直に受け止めていると、変化を感じます。イラク戦争に対する変化は、ハリケーンのカトリーナの頃から徐々にありました。それまでアメリカの中で、ブッシュ政権に対する批判は言いにくかった。だけど、ニューヨークタイムズがイラクで戦士したアメリカ兵1000人の顔全員の写真を大きく掲載したんです。2面くらい使って大きく。その頃から、イラク戦争に対する国民の風向きが少しずつ変わった。それでも戦争に価値があると思っていた人はたくさんいたし、ブッシュ大統領を支持する人もたくさんいた。しかし、オバマ大統領が誕生した原因のひとつには、明らかにイラク戦争があったわけだし、それはやはり国民の世論がずいぶん変化したからです。外国の記者として見るべきところは、そこを素直に感じて、風向きの変化を感じるということが大事。「おはよう世界」のいいところは、世界のニュースを毎日見ながら、いろんな風向きの変化を、少しずつ感じられるということです。

NHKキャスターに”日本人”について聞いてみた(2)に続く。

おはよう世界 - 公式サイト